パンの耳がすき

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【書評】人は常に何かを盲信したがる。 ジェームズ・クラベル『23分間の奇跡』

国とか学校とか会社とか宗教とか親とか。人はなぜ何か一つのことや、誰かを盲信したがるのだろう。たしかに、身を委ねられる相手がいると楽だ。自分は何も考えなくていいんだから。けれど思考することを放棄したら、果たしてそれは自分の人生を生きていると言えるのだろうか。
 
本書は我々に問いかける。
 
その問いかけとは、たとえば、意味もわからぬのに「われわれここにこっきにたいしてちゅうせいをちかい…」というようなことを教えて何の役に立つのか、とか、あるいは、人間の考え方を変えたり、何かを吹き込んだりするのは、なんと容易なことなのか、とか、自由とは何か、そしてそれを説明するのは、なんと難しいことか、といったようなことである。
 
本書を読み終えても、問いは残ったままだ。答えは教えてくれない。自分で考えるしかないのだ。そもそもこうしてすぐに答えを欲しがってしまうところが、我々の問題点なのかもしれない。
 
問いも答えも、用意されているから、きちんと用意されている以上には考えなくていい。何も疑問を持たず、必要以上に考えず、言われたことをそのまましておけばいい。我々は学校教育において、そうやって簡単に洗脳されてしまう。そう、洗脳なんて23分間もあれば簡単にできてしまうのだ。
 
なんて恐ろしい本なんだろう。
 
ところで、洗脳されやすいのは、「自分は洗脳されない」という自信を持っている人だとどこかで聞いたことがある。そもそも思考とは疑うことから始まるんだから、自分を疑うことを怠っているという意味で、これは当然だと思う。ひょっとすると”思考停止”とは、「自分は間違っていない」と思い込むことなんじゃないだろうか。「自分は間違っているかもしれない」と思うからこそ、人は謙虚になれるし、成長できるのではないか。
 
けどあんまり考えすぎると、この世のあらゆることが洗脳に思えてきてしまって生きていけないので、ほどほどにしとこうと思う。(恋愛なんてとくにそうだし。)